「できる人」の仮面と、Geminiへの独り言。AIを内緒にしたい自分のズルさ

3連休の2日目。 朝から息子をサッカーの練習試合へ送り届け、その足で静まり返った家に戻った。 娘はバスケの大会。妻も応援。 いつもは機械の作動音や後輩たちの声で騒がしい毎日だけど、今日だけは、カチカチというマウスのクリック音と、古くなったノートPCの冷却ファンが回る音だけが部屋に響いている。

新しいPCの設定。 これが意外と、現場のトラブル対応くらいに一筋縄ではいかない。 NASへの接続、セキュリティソフトの入れ込み。以前の環境を「現物合わせ」で再現しようとするが、どうしてもエラーが出る。

少し前なら、ここでマニュアルをひっくり返して半日潰していたところだ。 でも今は、画面の向こうにGeminiがいる。

「NASの設定でエラーコード〇〇が出るんだけど」

そう打ち込むだけで、解決策がスッと差し出される。 まるで、経験豊富なベテラン整備士が横で「そこはこう叩くんだよ」と教えてくれているような感覚。 おかげで作業は、笑ってしまうほどスムーズに終わった。

ふと思う。 AIを使いこなす人と、そうでない人の間には、もう埋めようのない「差」が開き始めている。 それは、手作業で図面を引くのと、CADを回すのとの違いに近い。

けれど、この便利さを職場の仲間に「横展開」したいかと言われると、素直に首を縦に振れない自分がいる。

私の職場は、ゴリゴリの製造現場だ。 いまだに「AI?なんだそれ、美味しいのか?」という空気すらある。 会社として「AIを使いましょう」なんて方針は一行も出ていないし、どこまでがセーフで、どこからが機密保持の壁に触れるのかもグレーなままだ。

だから私は、会社のPCのブラウザにこっそり隠れたCopilotを、自分だけの「秘密道具」にしている。 メールの文面を整えたり、面倒な報告書の骨子を作らせたり。 おかげで、周りが「まだ終わらないのか」と頭を抱えている横で、私は涼しい顔をして次の仕事に取りかかれる。

「あいつ、最近仕事が早くなったな」 「やっぱりリーダーは能力が高い」

そんな風に見られている自覚はある。 でも、その評価の半分が、実は私の背後にいるAIの手柄だなんて、口が裂けても言いたくない。

教えてしまえば、この「優位性」は消える。 教えないままなら、私は「できる人」の仮面を被り続けられる。

ズルいよな、と思う。 現場では「改善の知恵はみんなで共有しよう」なんて偉そうに言っているくせに、自分の一番の武器は、油の匂いのする作業着のポケットに隠したままにしている。

夕方、サッカーから帰ってきた息子の靴についた泥を払いながら、少しだけ胸がチクりとした。 AIを使いこなすことが「実力」なのか、それともただの「カンニング」なのか。

明日もまた、会社で私は「一人で解決したような顔」をしてキーボードを叩くんだろう。 まあ、今はまだ、この秘密を持っていてもいいか。 誰にも教えていないGeminiのタブを、そっと閉じた。

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