「安全第一」と口で言うのは簡単ですが、切羽詰まった現場でそれを貫くのは至難の業です。なぜ人は、危ないと分かっていても「近道」を選んでしまうのか。休日の些細な家事の最中に見つけた、精神論に頼らない「仕組みとしての安全」についての考察を共有します。
無意識に「安全な手順」を選べていた自分への驚き
今日は久々の休日。子供たちの送迎を終えた穏やかな時間の中で、切れていた玄関の電球を交換することにしました。
ふと気づくと、私は無意識のうちに「安定した足場」を確認し、作業に最適な「脚立」と「新しい電球」を手元に揃えてから作業を始めていました。会社で口酸っぱく言っている安全行動が、私生活の中にまで「体質化」していたことに、少し照れくさいような、誇らしいような気持ちを感じたのです。
しかし、明るくなった玄関を見上げながら、私はふと自分に問いかけました。 **「もしこれが、工場の現場で、一刻を争うトラブルの最中だったら、私は同じように迷わず脚立を取りに行けただろうか?」**と。
現場を追い詰めるのは「移動のムダ」という魔物
現場での突発的な設備故障。生産ラインが止まり、周囲の視線が保全担当者に集まるあのプレッシャー。 そんな時、もし必要な工具や図面が手元になかったらどうでしょう。
「あそこまで戻るのは時間がかかる……今、手元にあるモンキーレンチでなんとか回せないか?」
この一瞬の迷いが、不安全な姿勢での作業や、不適切な道具の使用、つまり「近道(不安全行動)」を誘発します。家で私が安全に作業できたのは、意識が高かったからだけではありません。**「時間に余裕があり、必要な道具がすぐそこにあったから」**なのです。
現場において、わざわざ工具を取りに行く「移動のムダ」は、単なる効率の低下ではありません。作業者の心を焦らせ、安全の境界線を踏み越えさせてしまう「魔物」なのだと痛感しました。
「頑張る安全」から「勝手になる安全」へのデザイン
「安全を意識しろ」という呼びかけだけでは、限界があります。リーダーである私の役割は、現場の「頑張り」に頼るのではなく、**「自然と安全に作業したくなる環境」**を整えることです。
今回の気づきから、一つの改善アイデアが浮かびました。 それは、**「重要設備への、専用工具と図面の定置化」**です。
- トラブル頻度の高い設備の見やすい位置に、使用頻度の高いスパナを専用配置する。
- エラーコードの対処法や図面をラミネートし、その場から動かずに確認できるようにする。
「わざわざ取りに行く」という心理的・物理的な負荷をゼロにできれば、作業者は自然と正しい手順、正しい道具を選べるようになります。 「安全を守れ」と強制するのではなく、安全に動くことが「最も楽で早い」状態を作ること。玄関の新しい灯りの下で、保全リーダーとしての新たな課題が見えた気がしました。
今回の「トヨタ思考」的気づき
「不安全行動の裏には、必ず『ムダ』が隠れている」
作業者がルールを守らない時、それを個人の意識の低さと片付けてはいけません。「道具を取りに行く」という「移動のムダ」が、焦りを生み、安全を損なわせている可能性があります。 **「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」**手元にある状態を作る。ジャスト・イン・タイムの考え方を「安全のための環境整備」に応用することが、現場を守る究極の対策になるはずです。
保全リーダーの仲間たちへ
「ついつい、手元にある道具で済ませてしまう」。 そんな現場のリアルな葛藤を、私たちは一番よく知っていますよね。だからこそ、現場を責める前に「どうすれば楽に、迷わず正しく作業できるか?」を、皆で一緒に考えていきませんか。
完璧なマニュアルを作るより、まずは目の前の設備にスパナを一本備え付けることから。そんな小さな「未完成の改善」の積み重ねが、いつか大きな「安心」に繋がると信じています。


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